国史跡「陸軍板橋火薬製造所跡」の昔と今、そして未来
—工都— 板橋の原点
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—工都—、戦前から工業や科学研究が盛んな板橋区は、そんなふうにも呼ばれていました。そんな工都の原点となった史跡が板橋区加賀に残っています。国史跡「陸軍板橋火薬製造所跡」は加賀公園、旧野口研究所、旧理化学研究所の3地区からなり、板橋区史跡公園(仮称)として整備される予定です。ここでは旧理化学研究所の遺構にクローズアップします。

日本の近代化へ貢献
国史跡「陸軍板橋火薬製造所跡」

板橋区加賀は、江戸時代、21万坪に及ぶ加賀藩前田家の下屋敷が広がっていた地域です。明治9年(1876)、明治新政府はこの跡地を利用して、日本初の官営火薬工場「陸軍板橋火薬製造所」を設立しました。終戦まで火薬の製造と研究の中心地として、稼働していきます。終戦によって稼働終了した板橋火薬製造所、その18万坪の跡地はGHQが管理し、希望する民間の企業、学校、研究機関に貸し出すかたちで戦後の社会がはじまりました。野口研究所と理化学研究所はその団体のひとつ。昭和46年(1971)にできた加賀公園も加えた約1万2000㎡が、これからできる史跡公園の舞台です。

現在の旧理化学研究所1号館
現在の旧理化学研究所1号館
昭和24年撮影(理化学研究所 記念史料室所蔵)
昭和24年撮影(理化学研究所 記念史料室所蔵)

板橋火薬製造所から理化学研究所へ
宇宙線研究はここから始まった

昭和24年撮影、1号館10号室(理化学研究所所蔵)
昭和24年撮影、1号館10号室(理化学研究所所蔵)
仁科芳雄(理化学研究所所蔵)
仁科芳雄(理化学研究所所蔵)

仁科芳雄は「日本の原子核物理学の父」と呼ばれる物理学者です。現在の岡山県里庄町に生まれた彼は、東大を卒業後にヨーロッパへ留学して最新の量子力学を学び、帰国後は理研の主任研究員になりました。仁科は理論、加速器、宇宙線を研究しながら、湯川秀樹や朝永振一郎ら物理学者を育てました。戦後宇宙線研究を推し進めた優秀な科学者たちの多くも、仁科に学んでいます。戦後は理研の所長となり、GHQと折衝して旧板橋火薬製造所の跡地に宇宙線研究室を入居させることにも尽力しました。

1号館マップ

1号館マップ

2号室

電子計算機のたくさんの配線を這わせるために上げ床に改築したあとが今も残っています。

日本大学生産工学部創生デザイン学科 中澤研究室制作
電子計算機の復元画像(日本大学生産工学部創生デザイン学科 中澤研究室制作)
日本大学生産工学部創生デザイン学科 中澤研究室制作

7号室

ふだんは食堂として使用していたこの部屋には、宇宙線を観測する仁科型電離箱という宇宙線計が置かれ、宇宙線の正体を知るため、毎日観測し得られたデータを分析する「連続観測」を行っていました。今でも部屋の奥には、観測スペースが残っています。

ルナキャスト
昭和24年撮影
仁科型で宇宙線を観測(理化学研究所所蔵)

廊下

研究者たちはとても仲が良く、ときには卓球を行うなど自由な雰囲気のなかで研究を進めていました。

ルナキャスト
昭和24年撮影、卓球を楽しむ室員たち(理化学研究所所蔵)

9号室

1960年代には、日本初のノーベル物理学賞を受賞した湯川秀樹博士もこの場所で研究を行なっています。今でいうスーパーコンピューターの元祖ともいえる電子計算機を設置しました。

1号館9号室
昭和24年撮影、1号館9号室(本誌の制作に当たり、当写真を所蔵する方を捜索しましたが、確認することができませんでした。お心当たりのある方は、板橋区教育委員会までお知らせください)

国史跡を通して、歴史・文化を学ぶ
産業ミュージアム

板橋区では、史跡公園整備と歩調を合わせながら、旧理化学研究所板橋分所が使用した建造物をそのまま活用した「産業ミュージアム(仮称)」の整備を計画中です。理化学研究所研究員たちが宇宙線の連続観測をはじめとした基礎研究を行い、日本の科学技術を進歩させた足跡が数多く積み重なっているこの地は、区産業を発祥させた板橋の近代的なものづくりの原点であることに加え、新たな産業を発展させるための科学技術との縁が極めて深い場所です。産業ミュージアムは、「区産業発祥の地」、「基礎研究の場」、「日本物理学界の中心的な場所」という歴史的価値を生かしつつ、未来の産業創造に向けた区産業の新たな挑戦に対する区民の共感を生み出し、関係する企業や関係機関の価値を高め、未来の区民生活への期待感を醸成していく施設となるよう検討し、令和11年度中のオープンを目指します。

地図
産業ミュージアム

史跡公園

東京都板橋区加賀一丁目7番・8番

アクセス

  • ・都営三田線

    「板橋区役所前」駅徒歩15分

    「新板橋」駅徒歩10分

  • ・JR埼京線「十条」駅徒歩15分
  • ・国際興業バス「東板橋体育館入口」徒歩5分
    [王22 王子駅⇔板橋駅] 
※現在整備中のため、加賀公園部分以外は非公開です。
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